収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年7月14日

朝一で6工場への配役の通告がなされる。

とうとう来てしまった。感傷になんか浸る暇はない。

朝食をかっこんで荷物をクリアボックスに詰め込む。部屋に残していくものはは官本と布団だけ。

台車に私物一式を乗せて三舎一階29室へ。奥から二番目の部屋。相変わらず暗い廊下。刑務所の廊下って、昼間はいくら晴れていても薄暗く、夜になったら今後は蛍光灯がどこまでもいつまでも不自然に舎房を隅々まで照らす。

こんなにたくさんの部屋が並んでいるのに物音ひとつしない。みんな出役してしまっているんだろう。

新しい部屋に入りボクはまずトイレをチェックした。案の定汚い。しばらく誰も使っていなかったんだろう。洗えば落ちる類の汚れであることに望みをかける。代わりに畳が綺麗。まあ前の部屋はギブスのヒールで自分がダメにしたんだが。

部屋を堪能する暇もなくすぐにそのまま工場へ。脱衣所でパンツ一枚になり、マスクを外し、パンツに異物を混入させて工場に持ち込もうとしていないかのチェックを受ける。いちいち手間取る。戸惑う。着替えの要領なんて覚えていない。順応に適した者はいつだって忘れっぽい。

工場では一番奥の端の席をあてがわれた。ヤンキーでもないのに…ちょっと居心地悪い。だけど扇風機の下なので涼しい。あからさまな視線はないが、どこからともなく、でも確実に皆に見られている。

トイレに行くだけで「用便願います」に「よし!」と大声でのやり取りがなされる。そんな気合いを入れて用をたすことなんてなかったから、笑いそうになる。

以前と同じ洗濯バサミを製品加工する工場。通称モタ工。洗濯バサミの組み立ては独居で嫌というほどやっていたが、ここでは一からのスタート。与えられたのは、ハサミを噛ませるための台紙を一箇所だけ折る作業。シンプル極まりない。日本中どこを探してもこれ以上シンプルな作業はないだろう。

 

休憩中にようやく他の受刑者と話をする。

みんなあのハプニングの瞬間をよく覚えていて気遣ってくれる。やさしい人たちだ。そんな彼らに「何やってここにきたんですか?」とは訊きづらい。だけど「満期いつですか?」は容易く問える。昨日より明日を大切にする。そうさボクらは未来志向未来人なのさ。

この工場30人くらいはいるだろうが、今日のところは前と隣と班長の名前だけしか覚えられない。班長の二人は元気がいい。いくつかはわからないが、爪の血色に若さが現れている。この子達はまた再犯するのかなあ。

 

いつだってどこだってここでは集団行動。ボクの足は…行列に並べずに少し歌ってた〜♫。列に馴染めないボクは整列も免除され先に部屋を出させてもらう。ラジオ体操も座ったままやらせてもらったし、帰りの行進も右っ!左っ!の号令は無視して進めと言われる。それはそれで難しい。配慮に満ちた…配慮に支配された自由かつ不自由な一日ははあっという間に過ぎていった。

 

部屋に帰ってぺたりと畳に座る。窓にはプラスチックの目張りが施されている。この部屋からは空が見えない。音も聞こえない。ここはそう宇宙船プリズン号。

 

 

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マーク・ストランド/犬の人生

選んだ世界と選ばなかった世界の分岐点。そこが分かれ目だとはわかっているけど選んでしまう、選ばせてしまう、選ばなかった世界の存在すら丸ごと飲み込んで打ち消してしまう圧倒力。

何もかもが予言めいている本ってのがたまにあって、突然姿を見せるフラッシュバック。妄想、脂汗、眩暈、動悸…もう何をどうやっても仕方ない。読書中にあらわれるフラッシュバックは読書で紛らわすことができない。

フラバしながら読み終える。