収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年7月17日

いただいた手紙を読み返しています。もう20通近くも…ありがとうございます。

京都に行かれてたんですね。はんなりいかはりましたか。

西へ東へ北へ南へ…伊藤さんのフットワークの(家に帰るのが面倒だからホテルに泊まってしまうという柔軟性も含めた身軽さ)を見ていると日本がとても狭く思えます。別に弘前に戻んなくてもいんじゃないですか?

伊藤さんが語る結婚相談所のエピソード…いつも泣けます。

なんて他人事に聞こえそうですけど…結婚ってショートゴールが曲者なんでしょうね。ボクの知人は女性同士で付き合っているんですが、その方のパートナーは筋金入りのゲイ男性と友情婚をしていると言ってました。「そろそろ離婚かなあ」とも言ってましたが、どんなに使い勝手の悪い制度であってもトリッキーに使い倒す逞しさに「ほーっ」っと感心させられます。

ボクの結婚は、愛より籍よりまずは子が先に来て、そしてそれはとても短く儚い生活でありましたが、それでもたまに夢にあらわれたりします。相手は福岡の病院ナースでボクは千葉の障害者施設のPSW。子ができたと電話で伝えられたボクの第一声は「…だけどオレ、福岡帰れないよ」のひとこと。ひどい言葉です。たまにふっと思い出したりします…いや違いますね、ずっと覚えていて、だけど身勝手な態度を気付かないままただのエピソードとして頭に残していて、もしかしてあれはすごく最低な反応だったんじゃないかと…今更ながら。

致命的に傷つけられた言葉は決して忘れないくせに、傷つけてしまった言葉はそのことにすら気づかない。気づきの瓶に蓋をする。

だからというわけではありませんが、今は子供に会いたいというよりも、彼女にあの時あんなことを言ってごめんと謝りたい気持ちの方が大きいです。まあそんな機会はないでしょうが、申し訳なかったという思いは抱えて生きていきたいなあと。まさに無期刑。覚醒剤よりもこっちの方が罪深い。(続く)

 

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ミヒャエル・エンデ/鏡の中の鏡

そういえば「モモ」も「果てしない物語」も読んでなかったっけ。誰かに差し入れのリスエストをしよう。

2022年7月16日

さて、ボクの部屋は敷地内でも一番端の棟の一階、さらに入り口から一番奥の奥…つまりは大奥にあります。部屋では座った位置からは空が見えません。ぼんやりと外を見ていると自分がどこにいるのかわからなく(なんだか空を飛んでいるような気分に)なります。

南に向いてる窓を開け〜♫ると近くに体育館があってそこからお経が聞こえてきます。お盆に墓参りに帰れない人たちが体育館でご焼香をしているんでしょう。指導日には神教、仏教、キリスト教…それらの教誨師が来て希望者には宗教活動(この表現であってる?)を施します。レリジャス方面に充実した祈り豊かな場所なんです。

繰り返しますが今日は月に2回ある矯正指導日。作業は休みとなり、部屋にいるとラジオから録音教材とテレビからの改善指導ビデオが交互に流れてきます。ラジオは府中にいた時と同じものが使いまわされて(きっと作成されたのは昭和だと思う)、ビデオはかなり昔の「ガイアの夜明け」だとか「プロフェッショナル」だとかを放映するだけというかなりやっつけな矯正トレーニングです。ボクもそれにきちんと呼応して、かなりやっつけな感想文を書いたり、ワークブックをしたり………とてもくだらない時間です。罰を受けている立場で反省をするための時間をわざわざ配慮してもらえるなんてなんて手厚いんだ…とは思いません。少なくともボクは思わない。だって反省なんかしてないし。反省してないのに反省文を書かされるのは、確かに罰です。刑務所ってホントよくできてます(嫌味)。テクニックだけを求められ人格は必要のない工場の作業の合間に人間性や社会性を学べったって、全体主義個人主義のハイブリッドなんて夢物語なのではないでしょうか。ボクは今後1秒たりとも反省なんかしてやるつもりはないですし、それを完遂する自信はあります。

かと言ってボイコットするわけにはいかず(懲罰になるし、仮釈にひびくし)、ぐちぐち愚痴りながら感想文の用紙を埋めています。まあ、たとえこの感想文に「ボクは反省しません」と正直に書いたとしても咎められることは多分ありません。書いて提出したという行為のみが評価されるのです。まあ読解力ある刑務官なんてあんまいなさそうだし、うまい反省文書けたからって再犯するやつはするだろうし。なんだかなあ。(続く)

 

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バーバラ・N・ホロウィッツ/WIDL HOOD 野生の青年期

この本よかった。なるほどなと思った。よく生き延びてここまでこれたなと自分を抱きしめてあげたくなった。

2022年7月15日

意外に暑い水戸の夏。

もちろん部屋にはエアコンなんてついておらず、あてがわれたうちわだけが涼のたより。廊下の扇風機もウォンウォンと頑張ってくれてますが、50人近く収容するフロアに3台(しかもその内の一台は家庭用タイプ)という全員に風を行き渡すには土台無理な配置。流れてくるのは扇風機が回る悲しい音だけという具合で風力かなり逼迫しております。

先月末の梅雨明けの頃は、あまりの灼熱っぷりに毎日くらくらとしていましたが(ほんとあの暑さはすごかった)、覚悟を決めれはしのげるものです。覚悟って大事ですね。
そんな所内のホスピタリティについての報告を枕に暑中お見舞い申し上げます。


ご心配かけておりましたボクのレフトフットアキレスは無事つながりました。ギブスもとれ添木に包帯というカジュアルスタイルへ装い新たに衣替え。二ヶ月ぶりに体重計に乗ったら一キロ増。そんなに太ってなかった。フォルムは変わってませんが赤黒く固まった腱はなんだか怖い。ジョンソン&ジョンソンのベビーパウダーをまぶしたら気味悪さが余計に増した。歩こうと地面を踏みしめると軋みそうでこれまた怖い。

「左をやったやつは右を酷使しすぎて今度は右をやる。そしてまた左をやる」

刑務官のそんな予言めいた助言は右足から動き始める習慣のついたボクには心当たりすぎてとてもリアルに響きます。

右に負担をかけずに左をケアする。自分を大切にするってなんて高度なテクニックを要するんだろう。

とりあえず的に歩くには歩けるんですが歩くということを意識しないと歩けない(それも長時間は無理)ってな感じでして、なんだか体の成り立ちが変わってしまった気分です。

色々と敏感になります。

先日、工場でガリ(理髪)をしてくれたおじさんが「バリカンやっててここらへんが変にやわいんだよね」とボクの後頭部を触って教えてくれました。気になって触ると確かにやわい。ホワイトイルカの頭みたいな弾力のある手触りのこぶができてました。

腫瘍?死の予感…

オルタナティブだぜ人生は。ここで終わるのも悪くない。

欠落づいているせいか生への執着も変化します。前の時みたく「どうしても生きのびたい。獄中死は絶対に嫌だ」みたいな欲は今回はありません。だからボクがもし脳腫瘍で死んでも伊藤さんにはバッドムードになんないでもらいたいなあと。そういう風に思っている人が一人でもいればいいやと。なんてね。

こういう遺書めいた手紙を書くのっていいですね。すっきりする。とりあえずここでは毎日日記をつけてるんで日記が遺書みたいなもんです。出来るだけ長い遺書物語にしたいです。(続く)

 

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高原英理/日々のきのこ

幼い頃から椎茸に恐怖していたボクが怖れた世界がこの本の中にあった。

怖くて美しくてそれはそれは面白い小説だった。

 

 

2022年7月14日

朝一で6工場への配役の通告がなされる。

とうとう来てしまった。感傷になんか浸る暇はない。

朝食をかっこんで荷物をクリアボックスに詰め込む。部屋に残していくものはは官本と布団だけ。

台車に私物一式を乗せて三舎一階29室へ。奥から二番目の部屋。相変わらず暗い廊下。刑務所の廊下って、昼間はいくら晴れていても薄暗く、夜になったら今後は蛍光灯がどこまでもいつまでも不自然に舎房を隅々まで照らす。

こんなにたくさんの部屋が並んでいるのに物音ひとつしない。みんな出役してしまっているんだろう。

新しい部屋に入りボクはまずトイレをチェックした。案の定汚い。しばらく誰も使っていなかったんだろう。洗えば落ちる類の汚れであることに望みをかける。代わりに畳が綺麗。まあ前の部屋はギブスのヒールで自分がダメにしたんだが。

部屋を堪能する暇もなくすぐにそのまま工場へ。脱衣所でパンツ一枚になり、マスクを外し、パンツに異物を混入させて工場に持ち込もうとしていないかのチェックを受ける。いちいち手間取る。戸惑う。着替えの要領なんて覚えていない。順応に適した者はいつだって忘れっぽい。

工場では一番奥の端の席をあてがわれた。ヤンキーでもないのに…ちょっと居心地悪い。だけど扇風機の下なので涼しい。あからさまな視線はないが、どこからともなく、でも確実に皆に見られている。

トイレに行くだけで「用便願います」に「よし!」と大声でのやり取りがなされる。そんな気合いを入れて用をたすことなんてなかったから、笑いそうになる。

以前と同じ洗濯バサミを製品加工する工場。通称モタ工。洗濯バサミの組み立ては独居で嫌というほどやっていたが、ここでは一からのスタート。与えられたのは、ハサミを噛ませるための台紙を一箇所だけ折る作業。シンプル極まりない。日本中どこを探してもこれ以上シンプルな作業はないだろう。

 

休憩中にようやく他の受刑者と話をする。

みんなあのハプニングの瞬間をよく覚えていて気遣ってくれる。やさしい人たちだ。そんな彼らに「何やってここにきたんですか?」とは訊きづらい。だけど「満期いつですか?」は容易く問える。昨日より明日を大切にする。そうさボクらは未来志向未来人なのさ。

この工場30人くらいはいるだろうが、今日のところは前と隣と班長の名前だけしか覚えられない。班長の二人は元気がいい。いくつかはわからないが、爪の血色に若さが現れている。この子達はまた再犯するのかなあ。

 

いつだってどこだってここでは集団行動。ボクの足は…行列に並べずに少し歌ってた〜♫。列に馴染めないボクは整列も免除され先に部屋を出させてもらう。ラジオ体操も座ったままやらせてもらったし、帰りの行進も右っ!左っ!の号令は無視して進めと言われる。それはそれで難しい。配慮に満ちた…配慮に支配された自由かつ不自由な一日ははあっという間に過ぎていった。

 

部屋に帰ってぺたりと畳に座る。窓にはプラスチックの目張りが施されている。この部屋からは空が見えない。音も聞こえない。ここはそう宇宙船プリズン号。

 

 

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マーク・ストランド/犬の人生

選んだ世界と選ばなかった世界の分岐点。そこが分かれ目だとはわかっているけど選んでしまう、選ばせてしまう、選ばなかった世界の存在すら丸ごと飲み込んで打ち消してしまう圧倒力。

何もかもが予言めいている本ってのがたまにあって、突然姿を見せるフラッシュバック。妄想、脂汗、眩暈、動悸…もう何をどうやっても仕方ない。読書中にあらわれるフラッシュバックは読書で紛らわすことができない。

フラバしながら読み終える。

 

2022年7月13日

県央へ受診。ギブスが取れてから初めての受診。添木のチェックだけの一分診療。小一時間かけて来てんのになあ。

付き添いの医官がもう作業ができるかについて訊ねる。主治医は、あっさりと許可を下す。

とうとう工場に行くことになるのかあ。

特別扱いの優越と一般処遇の安心はどちらがいいのだろうと、帰りの護送車からの田園風景を見ながらたそがれた。

窓に張り付いた虫ががんばってしがみついていたが、力つき飛ばされて消えていった。がっかりしながらも少し安心する。

塀の中に戻って、包帯を巻き直す処置がほどこされる。久々にあらわになった左足はもちろんおぞましい状態で、ごしごし洗っても際限なく垢が出てくる。ただのでかい消しゴムだな今のオレの足は。

「出来るだけ歩くように」という主治医の指示と「あんまり無理すんなよ」という刑務官の助言のはざまでボクは松葉杖を使いながら、足をついて進むというなんとも奇妙な歩き方をしている。

 

部屋に戻るとえらい人がやってきて「ギブス取れたのか」と声をかけてくる。隣の部屋の住人は「飯に毒が入っている」と怒鳴っている。ボクは官本で「カウアイ島の歴史」と名付けられた本を借りようか迷うが、そういえばもうアメリカには行けない身の上であることを思い出しやめた。

ボクは、刑期の短さで、自分がいかに運が良かったのかを言い聞かせながら、だけど同時に捕まってしまった運の悪さ、情けなさ、そんな恨み節も胸のうちに抱えている。複雑なのだ。

そして気がつけば空ばかり見ている。ボクは空依存症だ。

 

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マーサ・ナカムラ/雨をよぶ灯台

コッコは鳥の声ってのは、そうだなあと思った。

 

 

 

2022年7月12日

浴室まで連れて行ってくれる刑務官からウルトラマリンの香りが漂っている。三島由紀夫的刑務所の世界観にはミスマッチな…いやいや体育会系にはウルトラマリンがあっているのかもしれない。知らんけど。

運動は一人がいいか、複数がいいかと聞いてもらえるも、そんなの一緒になる相手次第だからなあ。「どっちでもいいです」と答えておく。結局今日も単独運動になった。動くたびに包帯がはらりとほどける。包帯を巻き直してもらうためにも医務願箋を出さなければいけない。

回診後、病棟に行く。刑務医官が「私も昔アキレス腱をやったことがあって、回復しかけの今が一番怖いんだよなあ」と静かに語りながら包帯をセットしてくれる。ぐっと気持ちの距離が近づく。依存症の「私もそうでした」にはさっぱり共感性を覚えないのに不思議だ。

足を傷めてからというもの自分の足を見る機会がえらく多くなった。足にボトックス注射を打つなんてどうしてなんだろうって思っていたが、足も歳をとることを知る。陰影のついた膝に老いが消えてはあらわれる。

いい天気だが布団干しがされていない。午後になって、中庭の草刈りが始まってその理由がわかった。土埃の布団で寝させないための配慮だったようだ。

通常の昼食に非常時用のアルファ米がプラスされている。賞味期限が迫っているから処分がわりに施されているだけだろう。それでも満腹になるからありがたい。

遠くらか怒鳴り散らすいつもの刑務官の声が聞こえる。作業への集中を妨げる放射能的ドラ声。近所迷惑だ。

 

 

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姫野カオルコ/彼女は頭が悪いから

失敗そのものよりも失敗に気づけないことの不気味さ。最後に彼女が提示した条件は誰が思いついたのだろう。彼女のキャラではないような気がしたんだが。

2022年7月11日

矯正指導日の夜はいやがおうでも自分について考えしまう。

Twitterにつぶやけそうな言葉がいくつも思い浮かぶ。

朝まで覚えておけるものなんてあんまりないけど、いつかここを出た時に投稿しようと思っているやつを寝ぼけ眼で枕元においてあるノートに書き留める。

 

スリップしない依存症者なんていない

 

薬物使用者が蔓延るとGDPが下がるって心配するのに、ただのドラッグユーザーを刑務所に入れて税金をアホほど投与することにはなんとも思わないのはどうして?

 

どうして反社に行かなかったのかって?発生と遺伝と好ましい環境という三つのラッキーな偶然が奇妙で複雑な形で重なり合ったおかげ

 

倫理観の問題ではない。全ては肉体的なタイプと気質とエネルギーの問題だ。

 

覚醒剤のあるとこに犯罪があるわけない。犯罪があるとこに覚醒剤がありがちなだけ。

 

部屋をぐるぐると歩いて回っていると頭が冴えてくる。

やっぱりオレは悪くない。悪くないから恥ずかしがる必要もない。堂々としていればいい。背筋が伸びていく。

ボクは普通に回復したくないんだ。回復するかもしれないし、回復しないかもしれない。その危ういどちらにも振り切れるかわからないバランスの上に自分をおいておきたいだけなんだ。その揺れの中に、揺れそのものが存在意義となっている。だから…つまりはボクは回復するわけにいかないんだ。

 

今日はそっち方面に覚醒する一日だった。

 

 

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早助よう子/恋する少年十字軍

「フレッシュで、ぶっ飛んでいて、ユーモラス」これってボクの理想そのまんま。

永作博美が脇役で出ている映画にハズレはないとおんなじように、岸本佐和子と柴田元幸が推薦する本だから間違いない。