収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年7月13日

県央へ受診。ギブスが取れてから初めての受診。添木のチェックだけの一分診療。小一時間かけて来てんのになあ。

付き添いの医官がもう作業ができるかについて訊ねる。主治医は、あっさりと許可を下す。

とうとう工場に行くことになるのかあ。

特別扱いの優越と一般処遇の安心はどちらがいいのだろうと、帰りの護送車からの田園風景を見ながらたそがれた。

窓に張り付いた虫ががんばってしがみついていたが、力つき飛ばされて消えていった。がっかりしながらも少し安心する。

塀の中に戻って、包帯を巻き直す処置がほどこされる。久々にあらわになった左足はもちろんおぞましい状態で、ごしごし洗っても際限なく垢が出てくる。ただのでかい消しゴムだな今のオレの足は。

「出来るだけ歩くように」という主治医の指示と「あんまり無理すんなよ」という刑務官の助言のはざまでボクは松葉杖を使いながら、足をついて進むというなんとも奇妙な歩き方をしている。

 

部屋に戻るとえらい人がやってきて「ギブス取れたのか」と声をかけてくる。隣の部屋の住人は「飯に毒が入っている」と怒鳴っている。ボクは官本で「カウアイ島の歴史」と名付けられた本を借りようか迷うが、そういえばもうアメリカには行けない身の上であることを思い出しやめた。

ボクは、刑期の短さで、自分がいかに運が良かったのかを言い聞かせながら、だけど同時に捕まってしまった運の悪さ、情けなさ、そんな恨み節も胸のうちに抱えている。複雑なのだ。

そして気がつけば空ばかり見ている。ボクは空依存症だ。

 

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マーサ・ナカムラ/雨をよぶ灯台

コッコは鳥の声ってのは、そうだなあと思った。