今回の怪我からボクは「体にいい運動ってのは一人でやるものだ」という教訓を得た。つまりは「筋トレに励もう」という機運が高まっている。だが、まだ休養処遇の措置がかかっており、例え休日であろうが9時から5時までは安静にしていなければならない。
「何もしなくていい」と「何もしてはいけない」とは似ているようで大きく異なる。リストラ部屋ってこんな風なのかもなあと想像する。横臥タイプの懲罰と言えなくはない。シナプスが枯れていく。まあ、もともとすくすく育っていたわけではないが…核だけは無くしたくはないもんだ。時間を潰すって自分を潰すってことのような気がして、刑務所で与えられる退屈ってボクをとても傷つける。ロマンはどこだ?融通の効かない場所で融通の効かない体になるということは不自由を覚悟しなければいけない。
12時が過ぎる。流れ出すラジオののど自慢。この番組、とても苦手だから、横になったまま人差し指で両耳を塞ぐ。目を瞑り無音を深める。しばらくすると指が痺れてくる。指の第二関節まですっぽりと耳の中に入ってしまったような感覚になる。こうなると今度は指を引き抜こうとしても引き抜くことができなくなる。だから力を入れずにすむ。耳に指を入れて聞こえなくしておきながら、どうしてだろうボクは耳をすます。するとボクを呼ぶ声が聞こえる。「〇〇くん」「お前」「にいちゃん」「〇〇さん」「あっくん」「〇〇」これまで出会った人たちがそれぞれの声でボクを呼ぶ。なんだか泣きそうになる。それでも次から次へに…闇に浮かぶ声の波紋、波紋、波紋。ぐらりと揺れる。地震だ。12時24分。結構でかい。結構長い。目が覚めた状態で背中でダイレクトに受ける揺れは立っている時とはまた違う迫力がある。揺れが止んだと気づいた時、ボクを呼ぶ声も消えていた。子供の呼ぶ「お父さん」の声は最後まで聞こえなかった。指を耳から抜く。ラジオからは地震速報が流れている。のど自慢は中止らしい。願いが叶った。
日曜は時間が余る。暇つぶしに呆けてみよう。
ただ壁のしみを見つめる。じっと見つめているとジブリの登場人物に見えてくる。ロールシャッハジブリ。今日は頭からマントを羽織った騎士があらわれた。
18時近くになると中庭越しの2棟の雑居からテレビの大相撲中継への歓声が響きわたる。一勝負ごとにボルテージが上がっていく。それはとても悲しいエレジー。必死すぎんだよなあ。もしかしたら当の力士よりも必死に見えて…出口のない者の一生懸命さって哀しい。人のことは言えない。ボクの読書も同じようなものなのだから。終われば刑務所という現実が現れる。
アンドレ・ケルテス/読む時間
読書というものは、身体的にも精神的にもとてもマゾヒスティックな行為だと思っていて、だからそこその姿は美しいのだろう。