収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年4月21日

こんな夢を見た。

親子の猫と散歩をしている。はしゃいで飛び出した子猫が車に轢かれてしまう。茶トラの小さな毛だまりが道路脇でモゾモゾと動いている。血も臓器もないただふわふわした毛の塊がモゾモゾしている。親猫が鼻先で匂うようにその物体に触れるとたんぽぽの綿毛のように散り散りに舞いとんで消えてなくなってしまった。

夢はこんな嘘をつくから困る。

 

今日から訓練だ。隣の棟に転房となる。

刑務所の廊下はいつも、どこも薄暗い。

刑務所の舎房はいつも、どこも薄明るい。

ぼんやりとしている。

決定的な光も絶対的な闇も決して受け付けない。

 

ゴールデンウィークを挟みこれから三週間を共に過ごす新入訓練囚はボクを含めて7名。

ボク以外は全員雑居ですでに見知った仲になっている。

いきなりアウェイだ。

訓練担当が「世界では戦争がはじまっている。3食つきのこの生活を当たり前だと思わず過ごすように」と訓示をたれる。

この生活を当たり前と思っている受刑者なんているのかなあ。

訓練担当からは「行為が全てである。オレはお前らの気持ちも努力も受け取るつもりはない(ぴしゃり)」そんな意志を感じた。厳しいが、全員の名前をすでに覚えきっているのはシンプルに尊敬する。事前に顔写真とかで予習してるんだろうなあ。

 

工場は「講話」「諸動作」「作業」の三原則で成り立っている。

ボクは諸動作がうまくできない。「右へ習へ」すら間違う。

「親指を太ももにつけろ」「指先を伸ばせ」「腕をぶらぶらさせない」「もっと頭をきちんと上げろ」「太ももをもっと上げろ」「歩くときは足を10センチ上げるように」「目線はまっすぐ動かすな」「メリハリをつけろ」「いっさいの動きを止めろ」「周りと動きを揃えろ」…一生分の注意を受けた。

目線をぶらさず周りと動きを揃えるって…ハードル高すぎる。コールドバレエでもあるまいし。身体を意志の元におくこと(と、その限界)について学ぶ時間。こんなに身体性を意識したのっていつ以来だろう。心よりも体の方がままなっていないことに気付かされる。

このカクカクした不自然な動きがよどみなくキビキビした流れになることは…きっとないだろう。かと言って、あまりに上手く諸動作をこなすベテラン受刑者の所作を見て、ああなりたいかというと、それも違う。

洗濯物の出し方、日用品の購入、提出物…覚えることが盛り沢山。というか覚えきれない。パニックになりそうだ。雑居だと誰かに訊けば済むだろうけど、独居だから頼れるものは自分だけ。

あてがわれた作業は洗濯バサミの組み立て。慣れなくて指が攣りそうになる。それでも…体が辛くても…作業時間が一番落ち着く。

周りは、さすがは類犯刑務所、手慣れたもんで同じ時間でぼくの3倍、4倍の完成品がどんどん出来上がっていく。

 

ふらふらになりながらどうにか今日が終わった。

部屋に戻って思う。工場ってど根性演歌の世界だな。

上下関係にえらく厳しい体育会系の部活に間違って入ってしまった中1の夏休み。退部するタイミングも逸してしまい無益なしごきに耐え忍ぶ夏の思い出。人生の夏休みのよう。

明日が矯正指導日でよかった。

あと10日ボクは無事に乗り切れるのだろうか。

 

 

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三島由紀夫命売ります

三島はさあ。すごく綺麗な文体で読みやすいんだけどさあ。エロい場面がエロくないんだよね。