収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年5月23日

食器口が突然ガバッと開き「はい薬、5分早いけど」と眠前薬が袋のまま差し出される。ボクは「あっ大丈夫です」と言って手にとる。薬を確認し「間違えありません」と口にする。コップを持つ手がぶれてしまい水がびしゃりとこぼれる。全く大丈夫ではない粗相をかましてしまう。「あーやっちまったなあ。足悪くするとバランス悪くするからなあ。痛みはないか」とフォローを受ける。ボクは「痛みはありません」とふきんであたりを拭きながら答える。「アキレス腱は治りが長いからなあ」というフレンドリーな口調にそぐわないいやな情報提供を受ける。気を取り直し、コップにお茶を注ぎ直す。アモバンを袋から取り出し「飲みます」と伝え、舌の上にのせる。この時いつもボクはミスチルの「名もなき詩」のジャケットをイメージしている。刑務官の目視を確認し、お茶で飲みこむ。もう一度「あー」と口をあけ、口内に薬が存在していないことを証明する。飲んだふりなんてしない。ボクは眠りたい。アモバンはボクにスムーズな眠りを与えてくれる。昼間何もしなくても、うっかり午睡してしまっても、アモバンさえあればボクはぐっすり眠れる。眠れないかもという恐怖からアモバンはボクを救ってくれる。ボクとアモバンは相思相愛の関係なのだ。手足の末端が少し熱を帯びるような感じになるのを待って布団を準備する。ボクはボクに「おやすみなさい」と一日の最後の挨拶をくべる。

 

気づけば月曜の朝になっていた。雲は空の一割ほど。水気を含んだ風が部屋を抜けていく。芝生が濡れている。夜中に土砂降り雨が降っていたような記憶があるようなないような。とりあえずパンツだけはきかえる。あとは一日中ずーっとパジャマ。布団も畳まなくなった。万年床と万年床に似合う人間はこのようにして出来上がっていくのだろう。

どこからか行進の掛け声が聞こえる。「左、右、左、右…」「前へならえ」。皆が工場へ向かっている姿が浮かぶ。別にぜひ参加したいとは思わないが月曜は特に取り残された感が大きい。

 

独房の矯正協会のカレンダーは半年ごとに取り替えられる。今はピンクの満開のチューリップを下から見上げる構図の写真。

カレンダーを見てると憂鬱になる。あーなんで一ヶ月は30日もあるんだろう。ひと月10日くらいで十分だ。

南に向いてる窓をあっけ〜🎵北マクラで横になる。窓の目張りの隙間から見える空を左から右へ、海へと向かう雲が流れてく。この雲をいったいいくつ数えれば今日は終わるのか。まあこの景色、動いている分、カレンダーのチューリップよりまだマシだ。

 

明日はお出かけ(受診)の予定がある。待ち遠しいほどではないが、楽しみであることには違いない。

 

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メイゾン・カリー/天才たちの日課

オーデンとサルトルエルデシュに共感。理由はアンフェタミン愛好家だから。アンフェタミン日課にクリエイティブってすっげーリスペクトですよ。