収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年3月20日

あのオレンジの光はなんの光なんだろう。夜中になると現れる。外廊下のモザイクガラスの向こう側。

工場?高速のライト?ただの街の明かり?出所したら確かめてみたいなあ…なんて思うのは今だけのこと。きっと忘れられた光になる。

そのオレンジの光と青白い朝の光が混じり合いながら夜が明けていく。

寝起きの風景としてはなかなかに情緒的だ。

青がだんだんとオレンジを飲み込んで、やがて全てが白に変わる頃、起床のチャイムが鳴り、朝が始まる。さあ現実だ。

明るい。洗顔で床に飛んだ水滴がこんもりと盛り上がる具合までくっきり見えるくらいに明るい。

 

今日は土曜なので作業はおやすみ。

読書と考え事の時間。

ストレンジャーになりたくてボクは本を読む。ぐっと顔を近づけて。視野が本で埋まるくらいまで。物理的距離の接近は没頭を早める。本世界にいる間だけは、拘置所の住人でいなくてすむから。

読書に疲れて脳みそがこれ以上文字を受けつけなくなったら、本を手放し、両手を頭の上で組んで真っ白な天井を見上げる。独房だってのにこんなに高い天井。このくらいの空間を確保しなければ受刑者の外へ向かう思いを支え切れないのだろう。

 

いつも思う。自分が強過ぎると。溢れる自意識。だからボクの書く物はブログ、手紙止まりなんだ。

そんなことを考えながら、ノートに「感じるは生きることへの反応。考えるは生きることへの抵抗」なんて格言めいた言葉を書き込んでいる。生きるについて語るなんてくだらない。実にくだらない。

昼食はおしるこにチョコレートジャム。脳みそがゾクゾクする。甘いものは官能だ。

 

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大江健三郎ヒロシマ・ノート

反戦のために今ここでできること。

動けないならまずは知ること。だからこの本を選ぶ。