寝つけずに過ごす長い夜を覚悟していたが、意外にもぐっすり眠れた。あっけなく堕ちた。
初夜の寝落ち…これは図太さによる適応なのか、それとも無意識による現実逃避なのか。いずれにせよ保釈中の睡眠不足を全部とり戻すような深い眠りだった。
ナイスアシスト!トラゾドン。
朝焼けが磨りガラスを染める。その光の射し加減から正しい時刻を判ずることができるようになるにはもう少し時間が必要だ。そんなことを思いながら…二度寝へ。
鍵穴に鍵を挿し込む。鍵をひねる。鍵が砕ける。乾いた砂のように指で摘んだ部分がほろほろと。鍵穴は塞がれた。開かない扉が出来上がる…そんな夢を見た。何の暗喩なんだろう。
午前中は生理検査のため医務へ連行される。採血されてる間も眠い。
働きすぎだぜ!トラゾドン。
刑務医官の問診で、これまでに自殺を企てたことが無いか訊ねられる。
メンタルを心配されてるわけじゃない。つつがなく刑を執行させるのに支障がある者なのか、そのチェックのためだ。
何度訊かれたって答えは同じ。いつだってボクは死にたくありません!
オーバードーズならまだしも、獄中死なんてゾッとしない。
川上未映子/乳と卵
卵という字はうまく書けない。母という字と同じくらいに難しい。
男になりきれなかったが、女も無理だ。改めて自分にはゲイしかなったんだと気付かされる。