七月は安全月間らしい。
もちろん工場に出ていないボクには教育用のペーパーが2枚配られるだけであるが。
食器口が開けられ刑務官から「どう?」と訊ねられる。
足の状態を確認するオープンクエスチョン。
一言では答えづらい。
「えー、あー、痛くはないですが、かゆいです。細くなったけどだいぶ戻ってきています。ひょこひょこですが歩けます。えーあー、はい。そんな感じです」
教育総括へ離脱教育Bコース受講の願箋を出す。「離脱教育を受けずして、刑務所を出ていくなんてありえない」そんなふうには思わないが一応抑えておかないとね。
N Aミーティングにも通っていたけど、あそこのバースデイ(クリーンになった日を新たな誕生日として祝う風習)ってのがどうも苦手で…アディクトのバースデイって結局、失敗の記念日なんだよなあ。あの時、あんな風にダメだった。ひどい体験をした。そんなテイストのメモリアル。失敗した日がスタートになる。あの独特な世界観はこういうメンタリティが共有されている背景があるせいからなのかなあ。ってそんな風に揚げ足取るような解釈をしてしまう自分の問題だけなのかもしれないけど。
暇を持て余す土日よりも、ウイークデイの方が手紙を書きたいという気がわく。
あの人は八月に出そう。あの人には九月にしか出せないな。予定が埋まるのが励みになる。
差し出す存在のありがたさ。
思い出を力にしていける強さ。これはボクの長所なんだろう。
アダム オファロン プライス/ホテル・ネヴァーシンク
黄色のペーパーバックの推理小説。それだけでもう面白さ確定!