収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年6月14日

舎房着が本日より半袖半ズボンへ、寝具も掛け布団からタオルケットへと変わる。

すべて処遇は一般受刑者も療養中の者も変わらない。

この他者と自分の差異のない世界からボクは優越感と劣等感のどちらを学べばいいんだろう。

 

外からは室内運動のBGMが流れている。気づけば音のない雨が降ってきた。

左足のふくらはぎに触れるとぶよぶよと張りのない手応え。直で触るプリンみたいで気持ち悪い。怖くなるくらいの弾力。気味が悪いのについ触ってしまう。抜歯の後の患部をつい舌で触れてしまうみたいに。左足が死んでいく。硬くて太かったあの頃の…そういえばマスターべションを最近してないなあ。

 

不意に若い刑務官が「もう飽きたか?」声をかけてくる。文脈もなしにかけられた問いかけにどう反応していいかわからない。しかもこいつ笑ってやがる。デリカシーのない笑いだが笑顔自体は爽やかだ。ボクは人柄を笑い方で判断するきらいがあり、まあいいやつなんだろうと思ってしまった。「飽きはしませんが、慣れました」と答えておく。

ほんと笑えるよなあ。いや泣いた方がいいのか?いやいや笑えもしないし、泣けもしない。

 

今回、親からは一切手紙が来ない。

親からの音信が絶え、サジを投げられたことに気づいた瞬間、ようやく親を超えることができたように思えて安心す。

 

 

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宮本常一/海に生きる人々

説得力。自分の足を使って手に入れた人の言葉は伝える力。