収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年4月7日

今日はいつもの課題作文とは趣が違う。

1、あなたから、あなたの命への手紙を書いてください、そんな「命を考えるワークシート」が配られた。

ちょっと興味をそそられるテーマだ。いっちょ真面目にやってやるか。

 

拝啓

命さま、お元気ですか。

まだお会いしたことはありませんが、いつもお世話になっています。

おかげんいかがですか。

ボクはいたって快調です。おかげさまです。

ボクが快調であれば、命さんも同じように快調である。そんな風にボクたちの調子はピッタリと重なっているわけではなく、たまにズレてるなあと思う時もあります。そんな時には、命さんの方で、だるさだとか疲れだとか痛みだとかを使って、ボクに注意喚起してくれますよね。

ですが、ボクは聞き耳を持たず(無視して)我を通すことがあります。つまりは、命を軽んじてしまうわけです。…申し訳ない。

人生も折り返しに近づき思うこともあって、ボクも「命」について正面切って考えなければと感じています。

正直言ってこれまでボクは「命」を大切にしてきませんでした。どちらかといえばひどい扱いで傷めつけてきたと言った方が正しいでしょう。結果、身体は「HIV」に、精神は「依存症」になってしまいました。どちらも完治のない不治の病です。幸い医学の進歩のおかげでどちらも治療を続けていれば、寛解可能な疾病となっています。この時代この場所で生きることの幸運。その幸運にただ身を委ねていればいい。それが命を大切にすることだとはわかっているんですが、歪んだ性格がそれを良しとしません。

今回、ボクは逮捕され、留置所に入ったんですが、そこで柄にもなく「人生」を省みたりしました。

毎朝、手渡されるHIVの治療薬。青と黄色の二つの薬を見ながら、この薬を服用するほどの価値がボクにはあるのだろうか。そんな風に考えたりしました。

考えた結果……よくわかりませんでした。

そして、よくわからないままこの薬を飲み続けるは間違っていると思いました。

ボクは薬をやめました。

本気で生きたいと思えるまで、自分の価値を信じれるまで薬をやめることにしました。(あっ!ここでいる薬は、覚醒剤のことではなく、抗HIV薬のことです)。

その後、体調は変わらず、命さんも特に何も知らせてくれませんでしたね。

三ヶ月ぶりにここで受けた血液検査の結果はしばらく検出されることのなかったウイルス量が8万コピーになっていました。これは、6年前に感染がわかった時の数値と同じ値でした。6年間の治療の成果が三ヶ月の断薬で元に戻る。体はとても正直です。このウイルス量を知らされて、ボクは「怖い」と思いました。

手付かずで残っていた「怖さ」の感情。

大して大事にしていたわけでもないくせに、いざ壊れそうになると「怖い」だなんて、ボクはなんて勝手なやつなんでしょう。勝手さに正直すぎる。

不健全な体にこそ健全な魂は宿る。

ボクは常々自分に甘いと思っていたけれど、もしかしたら自分に酷いヤツだったのかもしれない…

その日からもう一度ボクは薬を飲み始めました。

未だ、命についてはわからずじまいです。ですが、ボクは死について考えるようになりました。

「人生の意義は人生が終わることにある」とカフカは言っています。ボクも同意します。永遠になんか生きてられっかというのが本音ですから。

ただ、死ぬのは今じゃないという確信だけはあります。

生きたい理由も人生の価値もわからないままですが、生きる努力をしたいなあと。

怖さに敏感になることが「命」を大切にすることなんだと、今回薬をやめたことで気づくことができました。

ボクは「命」は魂なんだと思います。ボクの寿命と魂の寿命は別物で、魂を生ききれずにボクの人生が終わったりしたら、魂だけがふらふらと残ってしまうんじゃないか、そんな気がします。

もっと欲張って生きてみたいなあ。そんな風に思ったりもしています。

何もかも手にしてやろうという風な欲張り方ではなく、手にしたものをとことん使い切ろう、そんな欲張り方で、魂の寿命を使い切ってやろうと思います。ということで、もうしばらく(どのくらいになるかはわかりませんが、とりあえず出所までは)命さん、こんなボクですがお付き合いしていただけるとありがたいです。

改めまして、以後お見知り置きを。

 

2、今度はあなたの命があなたに対しての返事を書いてください。

命はあなたのもの。好きなようにあつかっていい。あなたがそうできるのは命だけ。命のあつかい方があなたらしさそのもの。

ゆっくりと考える。ゆっくりと生きる。ゆっくりと死ぬ。あわてず、あせらずに。ゆっくりと。

 

 

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