収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年11月2日

入浴後、脱衣所で監視の刑務官が怒鳴る。

「にやにやするな、オマエだ」。

誰が怒鳴られてるんだろうと思ったら自分だった。お湯が熱くて体が白と赤にくっきり染まっているのを中島くんと見せ合ってたのがダメだったみたいだ。

オッケーそこまではいい。怒鳴られるのなんてただの日常だし。肩をすくめて黙ってればいい。

だけど「担当から聞いてるんだからな」とかぶせてくるのは勘弁してほしかった。セクシャリティのことを仄めかしてるんだろう。危険だよそれは。その危険さをこの刑務官は想像できていない。アウティングになりかねないじゃないか。

ボクは不安になった。聞いていた同囚たちは何を察してしまうのだろう。聞いていた同囚たちは何を察さないでいてくれるだろう。

やだなあと思う。バレたらめんどくさいなあと。隠せてるもんは隠しておきたい。別にゲイなんて、大の大人が大騒ぎするほどのことでもないが、トラブルの種は避けておきたい。ゲイがどうしても苦手な人もいるはずだ。だけどここは苦手なものから距離を置く自由が許されない環境なのだから。

 

信じてもらえるとは思われないけど、公衆浴場では「男の裸だ!うほっ!ラッキー」とはならない。少なくともボクはムラムラしたりはしない。
どちらかといえば「無断でどうもすみません」って申し訳なくなる。ゲイが男湯にウキウキすると信じている男どもは、いつでもどこでも他者に欲情できるタイプに違いない。

 

ほんの一瞬、出役拒否したくなった。ああ早く明日になって日常をかぶせてしまいたい。

 

気分を変えたくて部屋に帰ってテレビをつけた。

今時のテレビって…ドラマよりバラエティよりニュースがすごい。

インドネシアサッカー場。韓国のハロウィン。インドの吊り橋。事故事故事故…百人以上がいっぺんに死ぬって…屈辱の数学史のエピソードがリアルにうつる。なかなかにエグい。

入浴の騒動なんてチンケなもんだ。

 

 

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ティム・インゴルド/ラインズ 線の文化史

どうしても読みきれなくて挫折。貴重で思い出深い本になってしまった。