6工場のみんなは舎房の2階に各々収容されている。足の怪我のせいでボクだけが一階の一番の奥の独房をあてがわれている。
朝、工場への出役の時には、建物の入り口にみんなが整列するのに合わせ長い廊下を一人歩いて追いつく。6工場の独房利用者は13名。刑務官の号令のもと歩き出す。途中、雑居のメンバーが隣の建物から合流する。その様は北朝鮮のマスゲームのように一糸みだれず流れていく。ボクは笑いそうになって目線を足元に逃す。間髪おかずに「下を向くな」と怒鳴られた。
顔をあげたら空は曇っていた。空は前にはない。いつだって上にある。塀の上にだけ姿をあわわす。
雲が風にのってタバコの煙みたく流れていく。見上げ続けるのも肩がこるんだよなあ。
今日の休憩中の会話は「風俗情報の共有」「悪業武勇伝」「違法薬物にまつわるエトセトラ」。ついていけなくて困るベストスリーのネタばかりで疲れた。部屋に帰って居眠りをしていたら見回りの刑務官に怒鳴られた。
怒鳴り声に始まり怒鳴り声に終わる刑務所の一日。
エントロピーが増大し爆発してしまわないために規則規律でしばりつける刑務所の秩序。それは刑務所を守るためにだけ機能する。出所後の暴発にまでは手が及ばない。このままだとボクは出所したら弾けてしまうに違いない。
ジル•マゴーン/騙し絵の檻
「創元推理文庫だったらなんでもいい」とリクエストしたら、塚本さんが忠実に送ってくれた。うれしい。