運動中、リハビリがてらグランドを一人歩いていたら水飲み場あたりから不穏なムードが漂ってきた。ボクはその現場からかなり遠くにいて、誰騒いでいたわけでもないのにうす黒い空気がもれ伝わってきた。
気づいたら誰かが担当足払いをかけられ組み伏せられた。全体重をかける瞬殺の体落とし。あれって…友達を無くすタイプのやり方なんだよなあ。押さえ込まれたやつは身動きが取れなくなっているが口だけは元気に騒いでいる。ここからでは誰だかはわからない。何を叫び、訴えているのかもわからない。アドレナリンが出て気持ちいいんだろうなあということはわかる。わらわらと駆けつけてくる刑務官たち。近くにいた者たちは全員離れるよう指示され、全員が現場が見えない向きで座るよう命じられる。君子危に近寄らず。悲しいかなボクはその現場から一番遠くにいる。
5分ほどで指示は解除された。3人が引っ張られてあがってしまった。「あーあ」とボクはこの貴重な運動時間が潰れたことをがっかりしている。
こういう出来事があると工場の雰囲気が悪くなる。暗くなる。
担当の腕っぷしの強さがとうとう日の目を見せてしまった。けど…やっぱり強さを知らしめるような場面を作ったらいけないよなあ。不可逆的な戦争。もう元には戻らない。
ボクは他人に暴力をはたらいたことがないから、彼が彼を蹴りあげたその動機について理解が及ばない。いったどんな衝動であればその暴力を肯定できるのだろう。一人哲学をしていたらもう10年もここにいるベテランの板橋さんが「めしの話だけしてればトラブルになんかなんねえのになあ」と真理を語ってくれた。
新堂冬樹/溝鼠
非暴力主義者なのでバイオレンスなシーンを飛ばして読んでたら700ページも半日で読み切れたぜ。