取調室に連行される。
再逮捕のための調べではない。
先日のルナティックなご近所さんの騒音騒動についての事情聴取のためだ。
当人のことを知らないので義理もない。彼のドア蹴り叫びについてボクはするするとうたう。これが同じ工場の者なんかだったらこうはいかないだろう。知らぬ存ぜぬになること請け合い。
調べの刑務官に「松葉杖の使い方下手だなあ」と笑われる。まあそうさ。うまく使う機会なんてこれまでの人生においてなかったんだから。
部屋に戻ればまた洗濯バサミ。午後になると握力が衰えて金具がサクサクと開けなくなる。
そして先月の報奨金は、462円だった。今年の年収はどのくらいになるんだろう。
遅くに入る新聞には黒塗りがなされてある。ひたちなか市での組員同士の発砲死亡事件についての記事が消されている。昨日診察の帰り、救急車両が激しく行きかってたのはこのせいだたんだ。
良いとは言えないが、悪いとも言い切れない。こういった事件にも人間らしさを覚えてしまうのは、刑務所でアングラに触れたからなんだろうか。
良いこともしないけど悪いこともしない。そんな味気ない人生を送るくらいなら、悪いこともするけれど良いこともする。プラマイゼロならこっちを選びたい。
また誰かが騒いでいる。「わかった。わかったから落ち着けって。まずは服を着ろ」となだめる刑務官。せめてもの抵抗なのか居室で全裸になるという奇策をとる輩がいるらしい。気持ちはわからなくもないが、実質としては相手には何のダメージも与えない。
刑務官も大変だなあ。感謝はしないけど同情はしてしまう。
2時間で500ページを読破。残念ながらヒットメーカー同士のケミストリーをボクはここに感じ取ることができなかった。「日本だったら」「こんなのありえん」ってツッコミどころがありすぎて没入できなかった。こういう場所にいるせいか「オトガメナシ」のエンディングはあんまり好きじゃないんだなあ。