収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年5月11日

訓練も最終日。

今日は集大成ともいえる配役審査会だ。

配役審査会と名付けられているが、ボクらに配役する以外の選択肢などなく(しかも、どこの工場に割り振られるかもすでに決まっているはずだ)、とりあえず刑務所的通過儀礼なのであろう。

そこそこの立場にある役職者たちが十数人、でんと座ってまち構える部屋に訓練生が、一人づつ順に呼ばれる。

卒業式の練習のように訓練期間中にも何度かそこでの作法について練習させられた。それなりに厳かな儀式なのだ。

 

部屋に入ったボクは、番号、名前、生年月日、年齢、刑期、満期日、執行名、最後に個人的な質問を浴びる。覚醒剤の使用歴について、疾病について、出所後の生活について…たたみかけてくる。まあほとんどが「はい」としか答えようがない閉じられた問いばかりなんだが。

最後のセクシャリティについてのやり取りでボクはやられた。

「同性愛だからといって容赦はしないからな」は、まあいい。そのあとだ。

「作業も入浴も関係ねーぞ」おっけー。これも想定内。そのあとだ。

「同性愛だからって妙なマネすんじゃねーぞ。お前我慢できんのか」

はあーー??なんだよそれ。顔が赤くなるのがわかる。

「はい」と答えることは、色狂いの変態であることを認めることだ。

ボクは答えるのを躊躇した。隣で担当教官が落ち着くよう目配せをしてくる。

 

きっとボクは「はい」と答えたんだろう。

審査会は終わって待機の部屋に戻っていた。

 

怒りは自分への敗北。ボクはリラックスしなければならない。

工場に戻り作業をしながら考えた。

多分、事前面接でセクマイを理由に独居を希望したせいでこんなツッコミを受けることになったんだろう。ボクのような権利の主張をする者はこれまでいなかったのかもしれない。集団内でのマイノリティであることの危険に対する予防としてのリスクマネジメントだったのに、淫行回避のための自衛措置だと解釈されてしまったようだ。セクシャリティを理由に個室希望というロジックはそんなに受け入れ難い世界観なのだろうか。

審査会は単なるセレモニーであり、刑務所の「本気」の場面ではない。けれど、刑務所としての「本心」はここにあることは間違いない。

 

まあなんにせよ、訓練も今日で終わりだ。

明日からどこの工場になるんだろう。

 

 

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黒岩重吾/飛田ホテル 西成山王ホテル 飛田残月

東京は目指し諦める場所で、大阪は諦め流れ落ちる場所(独断と偏見)。

選んだ本が、期待にどんぴしゃな世界観ってこと、滅多にないからうれしい。