収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年4月27日

午前中に講義が三つ。所内の職員による「受刑者の手引き」の説明と保護司の役目の話、あとは技官の体験談。

彼らは決して敵ではないんだけれど、具体的に救ってくれるかといえばそうではない。傍観者的味方の距離感。

そんな中でも技官の話は良かった。事故を起こしたとして、怪我にあい、痛い思いをするのは自分自身。その責任はもしかしたら管理者責任ということで施設が負うことになるかもしれない。だけど、傷を負い、将来不自由するのは自分自身。「無知は罪」だから気をつけろ、という趣旨の話は説得力があった。

作業中の脇目、目線上げは厳禁。手元に集中していたら降り出した雨にも気づかない。考え事も手元のピンクの洗濯バサミの針金の輪の中に吸い込まれていく。ブラックホールみたいだ。汗ばむ背中。一日が過ぎていく。過ぎていく。過ぎていく。爪が伸びる。

そして、今日も散々怒鳴られた。

怒鳴りにも普通の怒鳴りと感じの悪い怒鳴りとの二種類あって、感じの悪い怒鳴り方はもちろん故意にカチンとさせようとしてやってる訳であって、そのカチンを自制させる努力を強いてくる。もちろん怒鳴られるとイラッとするのでなるべく目立たぬようにおとなしく振る舞う。これだけの緊張感を持って深謀遠慮に立ち振る舞うような生活態度が身につけば……もう捕まるようなミスをすることはないはずだ。

 

部屋に戻っての夕食。大量の椎茸が漂うけんちん汁。「椎茸ダメなんだよね」と伝える相手もいないから、口にしてみた。シャバよりも遥かにノーモアな味がした。

検閲が終わり、ようやく持ち込んできた私本が手元に戻ってくる。

雨だと読書が捗る。窓を少し開けると風の音がして、ラジオの音楽をうまくかき消してくれる。

 

ニュースはカズワンの遭難事故をフューチャーしている。ウクライナでは戦争で何万人も死んでいるのに日本の観光客が二十数人行方不明って方に気が向いてしまうのは、ボクの中にあるわずかなナショナリズムのせいなのか。

きのう滝川と後藤が帰らなかったってね 今ごろ遠かろうね寒かろうね🎵

中島みゆきの歌を思い出してしまった。

 

 

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樹影譚/丸谷才一

おしゃれだなあと思った。きっと100年後に読んだ人もおしゃれだなあって思うんだろうなあと思った。