調べだと呼び出される。すわ余罪かとビビる。
心当たりはないが…それでもおそるおそる取調室へ。
そこには池上署の刑事が二人いた。
池上署ってどこだ?
目的を告げずに刑事は、去年のいつ頃、どこにいて、何をしていたか、ズゲズゲと聴いてくる。
結局、去年、寿町に「淀川アジール」を観に行った際、落としたPASMOについての調べだった。
池上署で捕まった誰かがボクのPASMOを持っていたらしい。
ボクはほんとによくPASMOをなくすのでその時のことを思い出すのにも非常に苦労した。
そのPASMOについては、すぐに再発行の手続きをしたのでチャージ分は使われていなかった記憶だけがあった。
拾った誰かに使わせたりしなくて(容疑を被せることがなくて)よかったと思った。
たったそれだけを確認するのに2時間くらいかかった。
この刑事、拘置所に来て勾留者とただ話がしたかったんじゃないか。
残念ながらぼくは雑談モードではなかった。他者との接触自体が久方ぶりだったし。調べだけでへとへとだ。
それでも話しかけてくる。そしてボクらに共有できる話題といえば「覚醒剤」くらいしかない。
やさぐれ気味なボクは「依存症者を刑務所に入れても無意味ですよ」と言う。
「だったらどうすればいいと思う?」と刑事は問うてきた。
ボクは答えに窮す。合法化、罰金刑、薬物刑務所…プランはあるがうまく言葉にできない。
情けないぜ。刑事一人を納得させるくらいの説得力ある言葉をボクは持ち合わせていない。
セクシャリティについてもぐちゃぐちゃ聴いてきた。
「ゲイは指向の問題であって、強姦魔とかとは全く違うので私には偏見はありません」なんて言うから、ボクも「刑事がしつこいのは職業的態度のせいであって、ストーカーとかとは全く違うのでボクには偏見はありません(嫌いですけど)」と言いそうになったがやめた。
せっかく池上から(結局池上署がどこなのかわからないままだったが)拘置所まで来てくれたのに結局雑談も盛り上がらないまま終わった。
刑事が帰った後、見つかったPASMOがポツンと机の上に置かれてあった。
いくつもの不愉快な霊的体験のあいだに気分のいいものがひとつさしはさまれてちょうじりを合わす。
スーパーナチュラルもリアリズムも同じなんだなあ。