運動で全身刺青の若者と一緒になる。
二人きりの運動。
誰かと会話らしい会話をするのなんていつぶりだろう。
うれしすぎる。ボクは100%全面的に共感受容する態度になっていた。
ともに腕立てをしながら語らう。
どうやら彼は工場で担当刑務官に抗弁してしまい只今懲罰調査中らしい。
ひとしきり担当の悪口を話したあと、「今度の懲役では無事故で行けると思ったんだけどなあ」とこぼす。
足元の底板を開けるスイッチを自ら押してしまう衝動をボクは否定できない。
「わかりますよ」と答える。
彼は腕立て伏せをしながら「わかってもらえます?」と顔をこちらに向けた。
和彫がのぞく彼の汗ばんだ首筋を眺めながらボクは「うん、そうなっちゃう時ってありますよね。リズムっていうか自分をあきらめてしまうときって」という。彼は「そうなんですよねーー!!!わかってもらえてうれしいです」とすごみのある風貌に妙にマッチした人懐っこい笑みを浮かべた。
川原繁人/フリースタイル言語学
「濁音にはするどさがある」と解説してあって…バカ、デブ、ブス、ボケ…なるほど…よく使う悪口はどれも尖くつき刺さる。