ズドンとどこかの(音の具合から隣の隣あたりの)部屋のドアが蹴られる音がする。
不吉な音だ。続けて叫び声。それは雄叫びに近いシャウト。腹の底に響くような切なさが夕闇を貫く。
わらわらと集まってくる刑務官。「大声を出すな」という怒号にその男は期待通り叫びで応酬する。
ルナティックですね。
多勢に無勢。あえなく保護室へ連行。
収る場所に収るものが収まった後の静寂。
月は…ここからは見えない。
こんな小さな出来事だけで読書が滞ってしまう。ボクは平坦に慣れすぎてしまった。
これは昨日の夜の話。
何もなかったように朝がくる。
連れていかれた男。彼は一方的な暴力で自らの苛立ちを表現し処理しようとした。それは一つのSOSの手段に見えなくもなかったが、周りには迷惑であった。刑務官は冷静だった。非常に辛抱強く、傾聴に努めていた。誠意を持って非暴力な態度で対峙していた。彼はそれにも暴力で応えてしまった。彼の一方的な暴力は保護室隔離という名の暴力で解決されることになった。ボクらは暴力が目的でも手段でもなく「罰」という結果にイコールでつながるとても正しい世界に生きている。
外は雨。若い女のヒステリーのように烈しい。空はひとしきり暴れ、気が済んだのか、ようやく太陽を迎え入れた。雨は止んだ。
朝は頭が働かず、昼は環境として無理だ。消灯後は眠剤が効いてしまうからその気になれない。最近はオナニーレスになっている。眠剤が強すぎるのかもしれない。
太田瑞久/ののの
このタイトル、ずっと「666」だと思っていて…拘置所の称呼番号が「666」だったから、なんだか縁があるなあと思っていて…そしたら「ののの」だったからびっくりした。