収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年5月28日

ギブスの中がむず痒い。痒い所に手が届かない辛さ。

ギブスって少しばかり(というかどんなに)無理しようがびくともしない。十日目にして気づく。とりあえず膝小僧が擦れて痛い。

 

どこからか「点検よーい」という号令が聞こえる。それを合図に「てんけ〜〜〜ん」と各舎房のそれぞれの階から響いていくる。まるでこだまだ。配食された食事をボクはがつがつ食べる。別に飢えてるからじゃない。暇だからだ。やることがなさすぎて全てに前のめってしまう。

口内炎ができている。右頬の内側に。痛くてもなるだけ両側でバランスよく噛む。痛い方が治っている気がするから。

 

タレントの自死のニュースが続く。今。読んでいる本の作者の本も自死とプロフィールにある。クリエイティブな立場の人が作品を純粋に評価してもらいたいなら自死は避けるべきだと思う。作品に死の影を探されてしまうから。自死インパクトは大きすぎる。ああ、けどこれは薬物使用にも言えることかな。薬やってたからあんな演技ができた。あんな曲がかけた。あんな作品になった。そんな色眼鏡がついてきてしまう。薬はただのスイッチにすぎなんだけどなあ。そうは理解されない。

 

やはり土日は問題が起きやすい。どこかで問題を起こし単独室に流れてくる者も多い。彼らは…いやボクらは病人じゃない。ましてや狂人でもない。ただの奇人にすぎない。奇人を独房に入れたって何がどうなるわけでもないのになあ。

 

午睡するならパジャマに着替えなければいけない。めんどい。だけど終日安座もしんどい。眠りはしないが布団を敷き、横になる。

唐突にガシャンと食器口があく。心臓が止まる。非接触タイプの体温計が差し出される。検温部に首筋を近づけるとピッと音がする。チェックされ問題がなかったんだろう。扉は閉められる。「はい、検温」とか「異常なし」とか言ってくれればいいんだが、無音刑務官には驚かされる。

今日も揺れる。休養日には地震が多い。

覚醒剤への渇望の到来は地震のようなもの。予想不可能だ。いつどんな風なやつがやってくるのかわからない。気づかない程度の余震は日常においても頻繁に起こっているだろう。もしもでかいやつが来ても対処法はない。被害を小さくするよう場所や非常用グッヅや避難経路に気を回しておくことくらいしかやれることはない。地震自体は防げない。それは、この国に、自分自身に生まれた運命なのだ。

 

18時過ぎに炊場のあたりから号令が聞こえる。まだ働いている懲役もいるんだ。ご苦労様です。

足がしんどい。少しの間、便座に座る。夕暮れの太陽は金色に輝いている。中庭の緑もきらきら眩しい。そろそろ夏か。あーその前に梅雨か。

 

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劉 慈欣/円:劉 慈欣短編集

宇宙のデカさを知ることは、地球のはかなさを知ることである。