収監ダイアリー

虚栄心、自己治療、責務、手段、自己実現。晒す限りは活かしたい。

2022年7月3日

嘆きの季節はもう過ぎた。だが笑い飛ばすにはまだ早い。

日曜は刑務所もあくびをする。ボクは何がが起きるのを待っている。

もちろん何にも起きないけど。

何も起きないのに汗はかく。ただ生きているだけで流れる汗で濡れるギブス。ふくらはぎのあたりがねちゃねちゃした具合になっていて強か不快だ。ギブスが溶けてきたのかと思ったがどうもそうではないらしい。綿棒を使って掻き出すと液状の垢らしきものが大量に取れる。白いチーズみたいなやつがいくらでもいくらでも…おぞましい。見なかったことにするも匂いは漂い続け存在を放ち続けていた。夜まで。いつまでもいつまでも。鼻栓が欲しい。

 

 

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呉明益/雨の島

台湾の小説を読みたいと思っていたところに…

むせかえるような自然観が、緑の濃さが、また沖縄とも絶対的に違うんだよなあ。

2022年7月2日

廊下のエアコンが稼働し始めたのはいいけれど、冷えすぎて鼻水がジュルジュルする。外は雷がゴロゴロ、隣の部屋は報知器がガシャガシャ。濁音に囲まれた土曜になりそうだ。

どういう文脈から発せられたのかは想像できないが、遠くから「俺は受刑者だぞお」と叫ぶ若いのがいる。それに呼応するように別の部屋から「俺もだーー!」と聞こえる。見習うべき自己主張。それぞれが暇つぶしという目的への手段をお互いの中に見出している。

土曜と日曜、何もしていないと死んで行くような気分になる。自分がどんどん損なわれているような怖さ。そんな怖さごと全てを手放し、失くしてしまうのも良いかもと思うが、どうしてもそれができない。ギリギリの煩悩。

 

何が気に入らないのか、毎回シチューをぶちまける輩がいる。昭和の親父じゃあるまいし…もちろん連行されて隔離処遇。いつものこと、毎度お騒がせします。後片付けを手伝うからボクにもういっぱいのシチューをおかわりくれないだろうか。

彼は懲罰の上限を超えてタガが外れている。

ボクは気づく。仮釈のない刑務所ってすごいことになるであろうということに。

みんな反省してるからしおらしくしているんじゃない。一日でも早く出たいから。ただそれだけ。そう考えると刑務所の役割って一体なんなんだろう。

 

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バッジュ・シャーム作・絵;ギーター・ヴォルフ文/世界のはじまり

見るからに贅沢なしつらえで、クリスマスに読もうとまだ開けていない。

 

2022年7月1日

夏の気配がしてきております。

いかがお過ごしですか。

就職決まったようでおめでとう。

どこで?

なんの?

???

今度直接会った時にでも仕事にまつわるエトセトラ、聞かせてください。

「もうやめましたよ」ってのは勘弁…いやまあそれもありかあ。

何はともあれひとまずおめでとうございます。

 

NCT127のライブを最後に韓流卒業かあ…送ってくれた手紙を読み返しながらこの手紙を書いています。

先日、新聞にBTSの兵役の記事が載っていて、メンバーの写真もあったんだけど、もうすでに名前が思い出せなくなっていた。

花の色は移りにけりな…忘るるは易き。悲しいもんです。

それにしてもエンタメはもはや日本より韓国だな。

芸術、芸能を大切にしようとする姿勢。パッションという次元ではなくシステムとしての完成度で(もちろんその背景には経済的メリットという泥臭い金の話が隠れているのでしょうが)それにしても大きく差がひらいてしまったなあ(こういう発言が分断を生んでしまうので良くないのだろうけど)。

今、観たい映画は「ベイビー・ブローカー」とか「三姉妹」とか。孤独で寂しい生活をしている者には、こってりとした人間模様を描く韓流映画はうってつけなようです。

 

話を戻します。

大学も卒業ですかあ。

ボクのキャンパスライフはバドミントンに明け暮れた日々で、とにかく暇さえあれば体育館でラケットを握りシャトルを追いかけた青春でした。

4年生の冬になって、そういえば卒業が近づいてきたなあと気づき、慌てての就職活動。余暇に集中しすぎるキリギリス具合。青春原理主義の理はあの頃すでに萌芽していたようです。

社会学部だったんですが、ゲゼルシャフトゲマインシャフト…ボクが学んだことは、ボクは資本主義に支えられた一般企業で働くのは無理だという現実でした。これについての自覚は、もう自信と言っていいほどの確信です。

福祉学科向けの求人にあった精神科のソーシャルワーカーの募集に社会福祉の勉強はいっさいしてこなかったのにどの面下げてエントリー。バイト感覚にも程遠い、受診のような心意気で挑んだところ見事採用され、新社会人になることできました。オッケー!人生甘いもんです。

それからこの業界でもう20年…はやいなあ。

「福祉をやりたい!」なんて特に大きな志があったわけでもなかったし、利他的センスも皆無。だけど、どこかマイノリティに惹かれるものがあったんだとは思います。きっと天職なんだろうなあ。…怖いなあ。

ボクは「やれません。できません」が苦手なノーと言えないソーシャルワーカーだったので(にもかかわらずノーと言わざるを得ない場面が多い現場が歯痒く、いつも腹を立てていたので)、若い人たちが限界を恐れず突っ走れるような支援環境を作りたいなあと思っていて、ささやかな野望にしています。

 

締めは、映画の話に戻します。

ボクは「ショーシャンクの空に」という映画が好きで、今日はあの映画のラストシーンみたく粒の大きな光る雨が降っています。カタルシスですねえ。だけど、ボクはあの主人公のように脱獄はせず、普通に出所するつもりです。アキレス腱を切ってしまい、脱獄はおろか普通歩行すらままならないからです。出る頃には小走りくらいはできるようになっているはず。しばしお待ちください。

限りあるモラトリアム。お互いに頑張りましょう。

それでは良い夏を!

 

追伸

軍艦島に行ってみたいとのこと。

行きたい場所がだけが積み上がっていく…コロナ禍の社会は刑務所と変わらないようです。

ボクはここを出たら今度こそ行こうと決めている場所があります。ひとつは「養老天命反転地」。もうひとつは「赤目四十八瀧」。もうひとつは「流氷」。もうひとつは「高遠の桜」。さらにもうひとつは…きりがない。そして今度は大久保に住もうと思っています(新大久保でも可)。

 

 

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宮沢賢治注文の多い料理店

一日一賢治。今日は「狼森と笊森、盗森」。

 

 

 

 

2022年6月30日

新しいカレンダーが配られる。明日から下半期。

古いやつを剥ぎ取り、新しいやつを貼る。時が経っていることを噛み沁め、にやにやする。

隣が今日から懲罰らしい。

終日、廊下を向いて正座してる姿を想像すると胸が痛くなる。報知器を下ろす頻度が激しい。調子があまりよくないようだ。調子が悪くなると自分の調子の悪さに敏感になってしまうタイプなのかもしれない。

もう会うこともない、というか会ったこともない相手を慮る。これが人生のよしみというやつなのだろう。

 

検温されたら、三十八度だった。「暑いからなあ」で時に処置はない。確かに烈しい暑さだし、まあいい。

 

ルールという白線を踏み越え、規制というハードルも乗り越えたボクのこの足は走ることを諦めた。これからは慎重に踏み外していくしかないのか。壁も硬いし、床も硬い。だからボクは柔らかくなるしかない。

そんなことよりも、猛暑の影響で室内運動が続き、体を動かす機会が奪われているせいでもう三日、便が出ていない。便力逼迫宣言をそろそろ出さなきゃいけなくなりそうだ。

 

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中沢新一/アースダイバー

これ、すげー面白い。東京のアンダーグランドの魅力。ミエナイモノへの想像力はこんなにもたやすく世界を広げる。

きっとここじゃなきゃ読めなかっただろうなあ。

 

2022年6月29日

水曜なのにパンじゃない。嗚呼…

しかもメインディッシュに椎茸がてんこりだし…

わずかな楽しみが侵されるとそれももう絶望だ。

さらに猛暑。殺人級の暑さ。もう夏を殺してしまいたい。

運動も熱中症予防のため室内運動。

一歩も部屋から出ないのにマスク義務はそのまま。作業メガネが苦しい。酸欠になりそうだ。

視界がコマ送りのようにチラチラすすむ。止まる。すすむ。また止まる。そしてまたすすむ。

充電切れ間近なスマホみたいなボク。鉄格子もぐにゃりと歪む。キーンと耳鳴りがする。

妄想も捗らない。手先は機械に変わり本日は5箱も仕上げた。

辛い時ほど仕事の出来がいい。おかしなもんだ。

誰か倒れないかなあ。そして全作業中止とかにならないかなあ。

 

夕食後、マスクを読んでいたら注意を受ける。

注意をされるだろうことを理解していて、やる。注意をされたら不快になることも予測していて、やってしまう。

自分らしさ。もう性癖だな。

ずっと罪深い存在で罰を受けるような生活だったから、刑務所での生活もそんなに苦ではない。すぐに順応してしまう。

それでもボクは早く出たいと願うことをやめないだろう。

 

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宮本常一/山に生きる人びと

「木を川に落し、筏に他のところを木津という」ボクのルーツは川なんだな。

2022年6月28日

梅雨明け宣言がなされというニュース。

異常気象にも慣れてしまった。

 

運動中に薬で捕まった年下のジン君と話す。

「オレ、しょっちゅう売人から偽物をつかまされるんですよねえ」と語るジン君。

ボクは「そうか」としか言わない。

彼のその言葉の真意が「確実なルート教えてもらえませんか」ということがわかってしまったから。

意地悪だなあ。

 

受診なので工場での作業の途中で今日はリタイア。

病院までの道中に現れる団地。ムードある団地。」

「なんか薬やってる奴が多そうだなあ」とボクは思う。

別に汚いとか古いとかではなく、長く薬中をやっているとなんとなくそういうのが判断できるようになるものなのだ。

付き添いの刑務官が「ここポン中生活保護だらけだぜ」ともう一人の刑務官にスーパーバイズしている。

なんだかなあ。

この団地のポン中とボクの違いはなんなんだろう。

ポン中捕まえてポン中罰してポン中のすみかにポン中を解き放つ刑務所の意味ってなんなんだろう。

 

出役、運動、入浴、官本、受診、差し入れ本6冊の受け取り…

なかなかに充実した一日だった。

 

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ユーディット・シャランスキー /キリンの首

偶然の賜物、たまたまの繰り返しが進化の正体だとドライでニヒルでクールでシニカルに教えられてきたが…この先生も教えてきたのに…

全然違ってんじゃん。熱いやつだったんじゃん。

 

 

2022年6月27日

こんな夢を見た。

超高層マンションの一室に何故かいる。壁はジグソーパズルでできている。サイケデリックなケバケバしい雰囲気。趣味の悪いラブホみたいだ。地震が来る。揺れる揺れる。きっと免震構造なんだろう。怖くなって部屋から出る。廊下にはサーフボードが設置されている。しがみつくと猛スピードで一階までぐるぐると回りながら降りていく。こんなところで死んだらみんなからどう思われるんだろうという夢なのに客観的が思考が働いている。

起きたら本当に地面が揺れていた。

いくら地震だって獄中死は勘弁だなあ。あの日、ハッテン場でやってる最中に揺れた時も同じようなことを思ったような気がする。ここで死んだらみんなにはどんな風に伝わるんだろうなあって。まあ、死んだ後の世界には手出しできないし関係ないさって、気にせず腰振ってたけど。

 

口内炎が群生している。免疫逼迫状態なんだろう。オルテクサー軟膏を処方してもらう。

ついでに日用品も支給される。3,500円の出費。報奨金は500円にも満たないのに…完全に収支のバランスが崩れている。

 

雷がピカピカ、ゴロゴロ、だけどなかなか雨は降り出さない。焦ったい空。30分ほど経って堪えきれずどしゃぶりがやってくる。くわっと雷鳴で明るくなる空。誰も見ていないのにボクは照らされる。

 

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V・E・シュワブ/アディ・ラルーの誰も知らない人生

登場人物のセクシャリティをいちいち頭で確認している自分のOSの古さに世界が進んでいることを実感できて嬉しくなった。