真夜中、蚊の羽音で目が覚める。こんな季節になってもまだ…
近寄ってきてでこに着地したところを右手でピシャリと仕留める。まだ血は吸われていないようだった。
よしっ!と眠りにつこうとすると、ブーンと再び頭のあたりに羽音が響く。死んでなかったのか?
指で畳に飛ばした先の亡骸はそこにあるままだ。
同族による敵討の復讐劇かあ。めんどくせえ。
毛布を頭から被ってやり過ごす。
行き着く先は夢の中。
今回の夢は松本清張のドラマの世界に入ったようだった。
寂れた町医者の待合室にボクはいる。赤ひげ先生がいそうな雰囲気。金のない人たちでごった返している。そこに緊急のオペ依頼。無理だと即答する若医者。受けるから自分に回せと怒鳴る院長。救急搬送されてくる重傷患者。待合室を担架が通る。見つめる患者たち。手術は長時間かかっていた。スタッフは総がかり。時間が経つごとに無言で立ち去っていく常連患者たち。その日から…
そこらへんで記憶が途切れた。それにしてもどうして夢の中では自分の顔が見えるんだろう。
寝不足のままの出役。
いつものメンバーの昼休み。バールの話で盛り上がる。バールの話だけで昼休みを潰せるのってすごいと思う。
水筒の水の出が悪い。ふたの奥に泥のような汚れがびっしりこびりついている。気持ち悪くて歯ブラシを使って洗うも限界。どうにも汚れは落ちない。仕方なく直のみにする。歯ブラシで水筒を洗うのも直のみも見つかったら調査対象だがまあ仕方ない。図太くなったなあ。
強いって何だろうなあって思った。暴力的になることではないことはわかるけど、賢くなることでも、我慢強くなることともちょっと違うと思う。だけどボクはここで強くなってるなあという実感は確実にある。別に強くなりたいわけでもないのに。
部屋に帰る。隣のおじさんが「眠剤変えてください。今飲んでるやつだと夜中にトイレに何度も起きてしまうんです」と訴えている。医官は「じゃあまず頻尿についての対処を考える」と上手だった。
昼間、誰かが「アモバンって苦いよね」と言っていたのを思い出す。ボクはどんな味だか思い出せなかったが、よく考えたら丸呑みしてるから味なんかわかるはずもない。
今夜はゆっくり眠りたい。
金城一紀/対話篇
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